井関農機株式会社インタビュー【第2回】儲かる農業へ「夢ある農業総合研究所」の目指すもの

Posted on Posted in インタビュー

 

夢がある農業とは何でしょうか…?第2回では夢総研が考える「これからの農業」についてお話を伺ってきました。

 

−続いて、夢ある農業総合研究所についてお聞きします。

 こちらの研究所のミッションを教えてください。

 

 本研究所の設立の背景には就農者の減少等、国内市場の構造変化があります。

 農業高校卒業して就農する学生の割合はわずかです。また新規就農しても長続きし難い現実があります。

 それらの現状の要因は、「農業では儲からない」というイメージがあるのではないかと考えています。

 

 井関農機は「夢ある農業応援団」というスローガンを現在掲げています。

 儲かる農業をするためには何をしなければいけないか。この問題に対して、例えば政府は大規模集約を進めようとしていますが、私たち農機メーカーができることとして、面積拡大ができるよう省力・低コスト化への技術普及、があると考えています。

 そのような農業の実現を総合的にサポートするために、「夢ある農業総合研究所(略称、夢総研)」は、先端的な技術も含めて、実証圃場を利用しながらまず自分たちで実際に試行して、成功させて、普及につなげていくことを目指しています。

 これが「夢ある農業総合研究所」の設立の目的です。

 

 

−外部の研究機関や農業団体とも連携されているのですよね。

 

 栽培の関係でも機械の関係でも、技術や製品として確立するまでの過程を研究機関や大学と連携する事例が多いです。

 商品化された後は普及活動になりますので、JAや普及所、試験場等と連携していく場合が多くなります。

 

 

スマート農業と技術の継承

 

−今後日本の農業の生産環境はどのようになっていくと想定されて、研究をされているのですか。

 

 現在生産しているのはやはり稲作関連の機械が多いですが、国内のお米需要は減少し続けています。

 今後は米以外の作物への転換が進むと考えています。稲作農家では麦大豆だけでなく野菜等を含めた複合経営への転換が進むと考えています。

 

 

−そのような中でどのような機械が求められているのでしょうか。

 機械の開発の対象となる作物の種類の幅であったり規模の幅であったりについては、需要は特にどこにあるのでしょうか。

 

 機械化に関する要望は本当に多岐に渡るのですが、切り口を絞ってお伝えしますと、面積については、規模拡大で一人が管理しなければいけない面積が大きくなるに伴って自動化やICTといった流れで、将来的に例えば一人が2台3台のトラクターを同時に監視できる機械ですね。完全無人の機械はまだまだ研究段階ですが…そのような省力化に向けた自動化を考えています。

 作物については、お米の機械はすでに確立されていますが、野菜では収穫の機械が一番困っていますから、収穫機は稲作からの作物転換が進行するに伴って提供していかなければいけない機械だと考えています。

 

 そして、作り手の方へ着目しますと、これまで「経験と勘」として栽培技術を蓄積されてきたベテランの方々から新しく始められる人・若い方々へ技術を引き継いでいくことが求められています。そのような変化のなかで、技術やノウハウの継承をサポートする機械が求められています。

 例えば、田植機では、土の中の養分濃度を常に計測することで経験を要する肥料の散布量を自動調整してくれる機械を商品化しています。

 

 

−技術の伝承につきまして。

 ベテラン農家と言われる方たちは、栽培技術を文字通り身につけられている、裏を返すと、先ほど「経験と勘」という言葉を使われていましたが、ご自身の技術を言語化されずに農業されている方が多い印象です。

 そのような個人の腕に蓄積されたノウハウの引き継ぎについて、機械はどのように貢献しうるのでしょうか。

 

 一つはデータ化です。例えば、先ほどの田植機のように圃場の状態を見ながら自動で判断できる機械を今後も開発しようとしています。そして、機械に判断能力を搭載するためにも、実際に栽培のプロの方々の作業内容をできるだけ記録に残すような取り組みもはじめています。

 

 

農業生産性のボトルネック「収穫」の自動化

 

14633103_917020931737024_2660320344026460271_o

 

−(弊社代表 左今)成りもの系の作物の収穫は、機械化できるでしょうか。

 ある北海道の糖度の高いミニトマトを作っている農家さんを訪れた際、夜も収穫できれば2倍量出荷できるんだよね、と話されていたんです。

 つまり、収穫が生産性アップの障害になっているらしい。だから収穫の自動化ができたら、農家の方々の可能性をかなり広げられるのではないかと考えています。

 

 収穫は、確かに農業者の生産性を制約してしまっている作業工程です。ただ、多様な作物の収穫機の実現は難しいものがあります。

 米づくりのように、どこでも似た体系で栽培されているのなら機械化の可能性はありますが、他の作物については、日本全国で天候や土壌など、地域の条件に合わせて栽培体系が様々だから難しいのです。

 キャベツを例に挙げると、同じキャベツでも北から南まで栽培体系は全く異なります。うねの幅や高さ、苗の大きさなど様々です、所によっては畝を作らずに作付けしていたりとか。

 これらの条件が異なる場合、同一の機械で作業することは難しいのです。

 もし、全国の生産者の方達が全て同じ体系で栽培してくれたら機械は一種類で済むかもしれません。ただそれだと、多種多様な農産物を生産し続けてきた日本の特長が失われます。

 

 

−(左今)例えば、こちらの研究所で栽培実証しているトマトの養液土耕ハウス栽培がものすごい勢いで普及していったとして、そのハウストマトの収穫機械は技術的には作ろうと思えば作れるのですよね。

 

 はい、現代の技術があれば機械化はできるのではないかと思います。

 ただ、その機械を開発しても「実際に販売できる価格になるか?」となると、なかなか難しい。まだ現段階では「とてもじゃないが…」という値段になってしまうと思います。

 

 

−収穫機械は既に幾つか販売されていますが、どのような基準で開発されるのでしょうか。

 

 こちらで考えることもありますが、やはり一番のきっかけになるのは現場の意見です。全国の販売網で生産者の方々から伺った意見を収集し、その上で開発した際の市場規模などを考慮して決めていきます。

 

 

新規就農者がより生産的な農業を実現するために

 

14525103_917020695070381_8580120429229344890_o

【神奈川県で異業種から農業参入された「株式会社なんかいファーム」】

 

−(左今)新規就農者に対して営農支援サービスもされていますが、どのような新規就農者にそのサービスを行われていますか。また、具体的にはどのような支援をされていますか?

 

 新規就農には複数のパターンがあります。実家を後継するパターン、雇用から独立するパターン、また異業種の法人が始めるパターン。その法人にしても大なり小なりで様々です。

 当社の実績からすると、異業種から参入してくる法人に対する支援が一番多いです。

 

 営農支援は、生産者やその地域の行政組織などからのご相談がきっかけで、こちらから提案するというよりは、お客様からのご要望で進める形を取っています。

具体的には商品になる作物をきちんと作っていただけるよう栽培技術指導や機械化支援等のサービスを行っています。

 新規就農する際の土地は、土の状態が作物栽培に適さない場合があり、本当に山を削っただけのような土地の場合もありました。

 そのような時に最初に行うのは、石を取り除く作業。ただ石を取り除くような特殊な機械はまず持っておられませんから、この時は私どもが所有している機械で作業を行いました。

 

 

−なるほどです。

 

 農業機械は金額的にやはり大きな投資です。一回使ってみて「良かった!」と思って頂いても即購入につながるわけではありません。商品が生産出来て、売れて、初めて「あの機械買おうかな」と検討して頂ける。

 だから、新規就農の方たちへは、私たちも数年のスパンで土づくりから商品に至る栽培技術について相談に乗りつつ、必要があれば農業機械を提案して購入して頂くという支援をしています。

 

 多くの工業製品とは異なり、農産物の場合は少なくとも数ヶ月~長ければ1年経たないと商品はできません。作物の生産から仕上げまでを支援して、皆様がきちんと商品として売って稼げるようになるまで。新規就農の場合は、技術と経験のあるベテランの生産者と比較してそこまでの到達にも時間がかかりますから、本当に長い目で支援しています。他の業界から見ると奇妙かもしれませんが、農業というのはそういう世界です。

 生産者の方たちとの信頼関係を形成することがまず一番だと考えています。

 

 

−(左今)僕はサラリーマンから独立した時、生産を知るために複数の農家さんを尋ねて手伝いしながら勉強させてもらっていました。

 この時、生産法人のような規模が大きい所はもちろんよく機械化されていたのですが、新規就農の方たちは、機械と言っても本当にちょっとしたものしか使用していない印象を受けていました。その方たちが何故それを使うかというと、将来を見通す前に「今、必要な物」を随時購入していっていたからでした。

 だから、経営的に生産性を上げるための方法が、生産の効率アップなど出来ずにただ商品価格を上げていくしかないように感じました。

 現在、国の施策としても民間の取組としても新規就農者を増やそうとする動きがありますが、経営を考えて生産的な農業をできる経営体が増えなければ日本の農業はいつまでも変われない、という危機感を僕は持っています。

 一方で今、旬八青果店のバイヤーとして産地を回る中で機械を導入して作った方が良いと思える生産者の方にお会いする機会が出てきていまして、「これくらいの面積なら、この機械を入れたら、これくらい収益伸ばせて、経営回りますよ」という道筋を具体的な数値で示せれば、10億や20億までの拡大を目指して参入する人が増えるのではないかと期待しています。

 そのような農業で儲けたいと考えている新規就農の方たちへの機械導入のアプローチを、日本の農業の振興のために増やして行って頂けたら嬉しいなという私自身の希望があり、先ほどの質問をさせて頂きました。